最高裁判所第三小法廷 平成6年(オ)2311号 判決 1997年10月28日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人鈴木宏明の上告理由について
一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人は、発明の名称を「鋳造金型」とする特許権(特許番号一三九九六二五号)を村田守次と共有している(以下、右特許権を「本件特許権」といい、その発明を「本件特許発明」という。)。
2 村田は、自己が代表取締役を務める新和精機株式会社に対し、上告人の同意の下に本件特許権について通常実施権を許諾した。
3 新和精機は、ダイカスト製品の鋳造加工を事業目的とする会社である被上告人に対して第一審判決添付物件目録記載の鋳造金型(以下「本件金型」という。)を貸与した上、被上告人をして電気機械に使用する部品であるナット(以下「本件製品」という。)を鋳造させ、被上告人の鋳造した本件製品につき、その全部の納入を受けて、代金を支払っていた。
二 本件訴訟において、上告人は、本件金型が本件特許発明の技術的範囲に属すると主張し、被上告人が本件金型を使用して本件製品を鋳造した行為は本件特許権を侵害するものであるとして、本件特許権に基づき被上告人に対して損害賠償を請求している。
しかし、前記事実関係によれば、被上告人は新和精機との契約に基づき、本件金型を使用して本件製品を鋳造し、その全部を新和精機に納入していたのであるから、被上告人が本件金型を使用して本件製品を鋳造した行為は、専ら新和精機の事業のためにされたものというべきであり、仮に本件金型が本件特許発明の技術的範囲に属するとしても、本件特許権の通常実施権者である新和精機の実施権の行使としてされたものと解するのが相当である。したがって、被上告人が本件特許権を侵害したということはできない。
右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山口 繁 裁判官 園部逸夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)